青葉くわえて口は敦盛

こんにちは。閑話猿です。

椿を見ると思い出すことがあります。

かつて、東京都渋谷区にあった「たばこと塩の博物館」(現・墨田区)を見学した際に、ビデオコーナーで熊野地域では椿の葉を用いたタバコがあるというものを見ました。

その映像では、ご高齢の女性が椿の葉に刻みタバコの「山吹(?)」を巻いて、ラッパのような形のものを吸っているシーンが出ていました。そして、この葉巻きを「柴巻」と言ったようです。

2015年に墨田区に移転したたばこと塩の博物館には、この映像が無かったように思います。

 

他に何か記録はないものかと思っていたところ、南方熊楠『南方随筆』(大正15年:岡書院)に以下の記述が見られました。

熊野に遊んだ人は熟知るが、潮見峠より東では古来山茶(ツバキ)の葉で煙草を捲き吸ふ、木板を頭に載せ

山路を通ふ婦女殊に然り、手づから捲て火を點る手際、他處の人倣し難い。

歯無き老婆抔、件の葉捲を無患子(ムクロジ)の(実の)孔に管所たるに挿て吸ひ歩く。其山茶葉に好悪有り

て、撰擇に念入れ、路傍の一文店で列で売る。古い狂歌に「熊野路は烟管(キセル)無ても須磨の浦、

青葉くわえて口は敦盛」(「紀州俗伝」)。

※文中の括弧は引用者が入れた。

との記述があり、好奇心をそそられました。「青葉くわえて」は、平敦盛が所有していた笛の名前を掛けているようですね。それにしても、他所の人が真似し難い手際は、ビデオでも見たように思います。

ムクロジの実。これの果皮から泡がでる。

右が核でとても硬い。

また、「葉巻をムクロジの(実の)孔に管所たるに挿て」とあり、おそらく咥えタバコができないので、実の穴に葉巻を挿して葉がほどけないようにしているのではないかと思います(実ごとくわえるのか?!)。

ムクロジは硬い核の中に種子を持ち、果皮には水に浸すと泡立つサポニンを含みます。この核は羽根突きの羽根の重りや数珠などにも使われますが、タバコに関連する使い方があるとは知りませんでした。

 

実際、味も気になったので柴巻を実践してみました。

近所に椿があったので3枚いただき、水洗いをしました。刻みタバコを乗せて巻いてみましたが、すぐ解けてしまう。こういった所が他所の人が真似し難い手際なのでしょう。

 

近所の池のそばに椿があったのでいただく。

刻みタバコを乗せてみる。

なんとか巻いてみました。

着火!・・・青臭い?

実際に着火して一服してみましたが、口の中にタバコの葉が入るのと、葉っぱの青臭さが印象に残ります。二服目で少し香ばしい感もしましたが、美味しいという気はしませんでした。葉の「選択に念を入れ」るといわれる通り、葉にも善し悪しがあるのでしょう。

実際に柴巻をされていた方にコツを聞きたいですね。こうした葉巻の文化は熊野だけでなく、兵庫県の淡路島、長崎の五島にもあったそうです。