F・V・ディキンズは医師・弁護士として開国直後の日本に来たこともあるイギリス人で、熊楠のロンドン滞在中は、ロンドン大学事務総長の要職にあった。

彼は最初期の日本学者でもあり、熊楠の『ネイチャー』の論文を読んで手紙を送ったことから知り合った。二人の年齢差は30歳近くあったが、ときに衝突や批判をしあいながら、年齢を越えた交わりを続けた。熊楠の帰国後も、交友は長く続いた。
熊楠は、ディキンズの日本研究を助けて文献を集め、翻訳を手伝うなどした。ディキンズは経済面も含めた、熊楠の支援者であった。

両者の研究交流は、『方丈記』の共訳という形で実を結んでいる。熊楠への結婚祝いの手紙には「私心のない観察者」と、ディキンズは熊楠を称えている。

<strong>F.V.ディキンズ 来簡</strong><br> ロンドン大学事務総長のディキンズ(1839~1915)から熊楠に送られた書簡。<br> 1903年に刊行された『日本古文篇』の翻訳に際しての質問で、『万葉集』などの解釈について尋ねている。
F.V.ディキンズ 来簡

<strong>方丈記</strong><br> 「行く河の流れは絶えずして・・・」の冒頭で有名な鴨長明による鎌倉時代の随筆。熊楠の帰国後、ディキンズとともに英語訳したもの。<br> イギリスの日本研究に対して、熊楠が貢献した象徴である。
方丈記